御本のなかにや、たくさんの、
花の名まへがあるけれど、
私はその花知らないの。
町でみるのは、人、くるま、
海には舟と波ばかり。
いつも港はさみしいの。
花屋のかごに、をりをりは、
きれいな花をみるけれど、
私はその名を知らないの。
母さんにきいても、母さんも、
町にゐるから、知らないの。
いつも私はさみしいの。
寝かせばねむる、人形も、
御本も、まりも、みなすてて、
いま、いま、私は、行きたいの。
ひろい田舎の野を駈けて、
いろんな花の名を知つて、
みんなお友だちになれるなら。
(花の名まへ:金子みすゞ)
『金子みすゞ全集』
(JULA出版局)より
お花の名まえって数が多いだけに覚えるのは難しいし、
私も知らない部類の人間です。
みすゞさんも知らないのが、
とてもさみしそうに書いていますね。
お花の名前を知って、みんなお友達になりたいと
願っている様子が自分の大事なものをすててでも、
とうたっています。
女の子らしいやさしい詩です。
お花の好きな人なら、みなこの様に思うでしょう。
鈴木 澪
花が好きなのに花の名前がおぼえられない私。
花束をいただいても、花束を贈っても、
知らない花がいつもある私。
みすゞさんも花が好き、大好き人間です。
港についた舟といっしょに運ばれ
てきた花の種。鳥が運んでくる花の種。
みすゞさんの時代から「よそから来た花」
も多かったことでしょう。
人と人とも名を呼び合うことで、友達。
花と人とも呼び合うことで友達。
みすゞさんらしいです。
大西 進