このページでは金子みすゞさんの

本日の詩をご紹介しています。

 

「きょうのみすゞさんの詩は・・・」

 

「かんざし」です。

 

 誰も知らない、

 

あのかんざしに、

 

千代紙着せて

 

あそんだことを。

 

 母さまはお湯だつたし、

 

 兄さんはお使ひだつたし……。

 

誰が見てゐた、

 

あのかんざしを、

 

そつとかくした

 

しまつたことを。

 

 お日さまは沈んでたし、

 

 お月さまはまだだつたし……。

 

誰がみつけよ、

 

あのかんざしの、

 

花のおくびが

 

もげてることを。

 

 晝間も暗い隅つこだし、

 

 金銀草は茂つてゐるし……。

 

誰も知らない

 

誰も知らない。

 

 

(かんざし:金子みすゞ)

 

『金子みすゞ全集』

(JULA出版局)より

 

 

女のあこがれ、かんざし……。

 

こわしてしまったかんざしに

 

寄せる想いをみすヾさんは、

 

この様な言葉でつづる。

 

そして最後にかくしたかんざしを

 

誰も知らないとむすんでいます。

 

誰もが経験ある事件を詩にする様な

 

ことではない事でさえ、

 

こんなににも詩的にするんですね。

 

絵に表わすのは難しい詩だったと思います。

 

女の子の心の動きは特に……。

 

鈴木 澪

 

 

自分の宝物は誰にもでもあり、

 

とくに子どもは石ころでも宝もの。

 

もげてこわれたかんざしに、

 

自分だけがそっと持ってるヒミツ。

 

大西 進