このページでは金子みすゞさんの

本日の詩をご紹介しています。

 

「きょうのみすゞさんの詩は・・・」

 

「御殿の桜」です。

 御殿の庭の八重ざくら、

 

花が咲かなくなりました。

 

御殿のわかい殿さまは、

 

町へおふれを出しました。

 

青葉ばかりの木の下で、

 

劍術つかひがいひました。

 

「咲かなきや切つてしまふぞ。」と。

 

町の踊り子はいひました。

 

「私の踊りをみせたなら、

 

笑つてすぐに咲きませう。」

 

手品つかひはいひました。

 

「牡丹、芍薬、芥子の花、

 

みんな此の枝へ咲かせましよ。」

 

そこで櫻がいひました。

 

「私は春は去(い)にました、

 

みんな忘れたそのころに、

 

私の春がまた來ます。

 

そのときこそは、咲きませう、

 

わたしの花に咲きませう。」

 

 

(御殿の櫻:金子みすゞ) 

 

『金子みすゞ全集』

(JULA出版局)より

 

 

桜は春になれば咲きます。

 

春が過ぎれば咲かなくなります。

 

いくら殿様でもわがままは聞けません。

 

また春がくれば咲くのだから

 

待っていればいいのです。

 

鈴木 澪