このページでは金子みすゞさんの

本日の詩をご紹介しています。

 

「きょうのみすゞさんの詩は・・・」

 

「障子」です。

  

 お部屋の障子は、ビルディング。

 

しろいきれいな石づくり、

 

空まで届く十二階、

 

お部屋のかずは、四十八。

 

一つの部屋に蠅がいて、

 

あとのお部屋はみんな空(から)。

 

四十七間(ま)の部屋部屋へ、

 

誰がはいってくるのやら。

 

ひとつひらいたあの窓を、

 

どんな子供がのぞくやら。

 

──窓はいつだか、すねたとき、

 

指でわたしがあけた窓。

 

ひとり日永にながめてりや、

 

そこからみえる青空が、

 

ちらりと影になりました。

 

 

(障子:金子みすゞ)

 

『金子みすゞ全集』

(JULA出版局)より

 

 

みすゞさんの詩集の一番最初に載っているのがこの詩です。

 

障子を部屋に例えているところが

 

この詩の楽しいところでしょう。

 

蠅が一匹いてあとは指で開けた穴がひとつ。

 

なんともユニークでみすゞさんらしさの

 

ひとつではないかと思うのです。

 

昔は家に必ず障子がありましたし、

 

子供はそこに指で穴を開けたがるもの。

 

なんでもない日常の一こまを詩にしてしまう巧みさ。

 

みすゞさんにとっては詩にならないものなどないのでしょう。

 

見るもの、感じるもの全て詩として蘇るのです。

 

みすゞさんの非凡さはそこにあるのではないでしょうか。

 

哀愁に溢れた詩は、読む人の忘れかけていた情感に語りかけ、

 

幼かった頃に私達を引き戻してくれるのです。

 

鈴木 澪

 

 

仙崎のみすゞ館に行くと、

 

みすゞさんが詩を書いていた室に障子があります。

 

障子に指で空けた穴から空がみえます。

 

(家々の屋根が高くないので空が広くみえます)

 

詩の終わりは、その穴から青空をみていたら

 

「ちらりと影になりました」で終っているのです。

 

「青空に黒い影」なんだか先を見通していたようで

 

ドキッとしたことを思い出します。

 

オペラの序曲のようにも思えました。

 

大西 進